私のドイツの靴の先生に言わせれば、日本人の靴の買い方は、宝くじを買うのと同じ。ときどき当たりがあるから買う。なぜ、このような買い方になるかと言えば、自分の足を知らないから。だいたい23.5cmぐらいとか、甲高足広みたいだから、とか。とってもアバウトなんですね。
私としては、お客様にご自身の足がどのような足なのか、きっちり測定し、なるほど自分の足はこうなのか、とご納得いただいたうえで、緻密なシューフィッティングを行いたい。だから、なになにぐらいの「ぐらい」は許せないんです。そのために、私の店では、当時、岡山県下で初の3次元足測定機を導入し、足全体の60,000ポイントをスキャニング、0コンマ何ミリで数字が得られるようにしました。そうすれば、私どもとしても、自信を持ってご提案できますから。
実際、そういう高性能な機器で足を計ると、ご自分が思っていたよりサイズが小さかったり、幅が細かったりすることが多いのです。
靴選びは、まず、自分の足を知ることから。きちんと足を計測してもらえる店を選びましょう。
ちなみに私のお店では無料でお客様の足の計測をしています。自分にぴったり合う世界で一足だけの靴に出会うための重要なステップです。
ID野球で知られる野村元監督が「理論のない配球は、意味がない」とよくおっしゃっていましたが、それはシューズフィッティングにも当てはまると私は思います。0コンマ何ミリのデータをもとに、その人のウィークポイントを見つけ出し、それをカバーするためにこれはこうだからこうすればいいのではないか、と理論に基づいて中敷等を調整する。このことは、店で働くスタッフに口を酸っぱくして言っていることです。理論がなければ、いきあたりばったりのシューフィッティングになってしまいます。理論に基づいていれば、もし、万が一その時点で10点満点の調整でなくても、よりよい次の調整につながります。
お客様にとって、その理論はあまり重要ではないでしょう。履いているうちに、あ、これ、いい。とか、心地いいな。とか、思っていただければそれでいいと思うのです。でも、理屈ぬきに心地いいと思っていただくためには、ちゃんとした理屈が必要なのです。
私たちは、日々、頭をフル回転させながら、お客様の足と向かい合っています。そして、その経験を重ね、ノウハウを蓄積することで、より一層心地よい靴をお届けすることができるようになりたいと強く思っています。昨日より今日。今日より明日。私たちの挑戦は続きます。
足に支障がないのであれば、ヒールの高い靴を履かれても問題ないと私は、思います。しかし、足に変化が現われたら、できるだけ早く履いている靴を見直す必要があります。足に関わる最初の危険信号は、足の裏にできるタコ。いままで何もなかったところにタコができたら、要注意。というのも、タコは通常ではかからない重さや摩擦を受け、それを自己防御するためにできるものだからです。
まず、この時点でひどい痛みはありません。なので、多くの方が見過ごしがちですが、ぜひお早めにご相談ください。足の裏は家に例えれば、土台の部分にあたります。少しの歪みでも、上の膝や腰の部分では大きな歪みとなり、膝痛や腰痛を引き起こしてしまいます。そうなってからでも、対処することは可能ですが、履ける靴を大幅に制限することになることになりかねません。
まずは、ご自分の足をお風呂に入ったとき等に、チェックする習慣を身につけていただけたらと思います。
そうすれば、快適に、ある程度ヒールのある靴をずっとお履きになることも可能です。まずは、足の裏のタコをチェックです。
糖尿病の方の靴選び。じつはこれ、とても気をつけないといけないことなんです。糖尿病の方は、世界的にもどんどん増えてきていて、3人に1人は、糖尿病予備軍。人ごとではすまされません。
糖尿病の症状としては、神経障害と血行障害があり、2つ同時に出ることが多いです。まず、神経障害なので、痛みや暑さを感じない。それだけでしたらいいんですけど、血行障害も重なり、血がうまく流れないようになります。
そういう方が足に合わない靴を履いて、靴ずれを起こすと、痛みを感じないので、ひどい傷になります。そして、血行障害があるのでそこから腐って壊死する。そうなったら、もう外科手術で切らなければならなくなります。すごく怖いことなんです。
靴と足に関わるシンポジウムでも、糖尿病の方のシューズフィッティングが議題にのぼることは多いです。それだけ、いま注目されているデリケートな問題なのです。
もし、定期検診等でご自分が糖尿病になりかかっているのがわかったら、靴を選ぶ際は、きちんとした知識とノウハウを持ったシューフィッターがいるお店に相談するようにしてください。
小学校から、大学まで、サッカー漬けの日々を送ってきた私、中山。小中学・高校時代は県選抜の選手。大学時代は、約100名の部員を束ねるキャプテンを務めました。そして、プロのサッカー選手を夢見てアルゼンチンに留学。ケガなどもあり、その夢はかないませんでしたが、いまでもサッカーは、大好きです。
そこで、いま取り組んでいるのが、世界的に有名なスポーツブランドのサッカースパイクに入れる中敷の制作。最終調整は、スポーツショップで行いますが、そのベースとなるものは責任をもって私たちが作っています。どんなところに負担がかかりどのような疾患が現れるか、また、どんな動きに対応しなければいけないのか、自分がプレーヤーだったので、わかるんですよね。難しいですけど、とても楽しい仕事です。
ドイツの私の先生は、国代表の選手のスパイクに入れる中敷を作っています。私も近い将来、日本代表の選手の中敷を作るのが目標です。
そのほか、ピストル射撃のオリンピック選手の靴の調整もさせていただいています。これからも、スポーツ関係の靴の調整を行っていきたいと考えています。基本は足や靴にお困りの方のために私たちは存在しますが、こういった仕事も楽しいですよね。
仕事柄、よくドイツに行くんですけど、いつもすごいな思うのは、靴の履き方。日本人は、中腰で靴紐を無造作に結ぶことが多いんですけど、ちゃんと椅子に座って、かかとを靴に合わせてからキュッと結ぶんですね。素人目にはわからないかと思うんですけど、ぶれずにキチッと履くには大切なことなんです。それが自然にできてるのってすごいなぁと思いました。さすが、成熟した靴文化を持つ国だなと。
あと、ドイツには、外反母趾の人が日本に比べてすごく少ないんです。それはなぜかと聞いたんですけど、おそらく日本人は家に帰れば靴を脱いで解放する。そして、また無理をして靴を履く。その繰り返しでどんどん曲がるんじゃないかと。ドイツ人はぴったりフィットした靴を装具のようにキチッと合わせて履くから曲がらないのではないかと。
また、ふだん高いヒールの靴を履いている人は少ないですね。パーティーとかに出席するときは、会場までパンプスを持って行って履き替える。そういうのが普通にできてるんですね。路面が日本と違って石畳だったり、治安の部分でいざというとき走れる靴じゃないといけないといけないいうこともあってヒールの低い靴を履いていると思うのですが、足にとってはいいことです。見習うことは多いと思います。
約60年前まで、靴は買うものでなく、あつらえるものだったんですね。それがいつしか既製靴がマーケットを広げ、買うものになってしまった。でも、それって、やっぱりおかしいと思うんです。足って、千差万別。同じ人はいらっしゃいません。しかも、全体重をわずか20数センチの大きさで支えているわけですから、その人にぴったりのものをあつらえなければ、これはやはりまずいだろうと。
しかし、現状のフルオーダーメイドの靴は約30万円ほどかかります。ご利用になるお客様は、足に障害のある方。そういう方は、靴というものは日常生活を支障なく送るための装具ですから、よいものであれば、決して高い買い物とは思っていらっしゃらないようです。でも、一般的に考えて、一足30万円というのは、やはり高い買い物。
そこで、いま取り組んでいるのは、3次元CAD等を用いて、機械でできる範囲は機械で行うことにより、フルオーダーメイドの靴を10万円以内で作れるようにする仕組みづくりです。
もちろん、La mano de Kent(ケンタロウの手)というブランド名からおわかりいただけるように、私たちは手でしかできない仕事にこだわります。そのうえで、多くの方が手に届くものにする。近い将来、必ず実現してみせます。
私たちが展開しているブランドLa mano de Kentのブランドコンセプトは、「手でこしらえる、足もハートも喜ぶ靴づくり」。足の障害をしっかりカバーしていても、やっぱり不細工な靴はできるかぎり作りたくない。色気のある靴を作っていきたいという思いは強いですね。
で、色気のある靴とは、どんなものなのかというと、例えば、色ですよね。黒一色の靴でも、つま先はてかてかなんだけど、だんだんぼやけていって、かかとの部分は逆につやがない、みたいな靴のように、微妙な風合いが感じられる靴。
人間でいえば、背が高くパッと見て、あ、イケメンだね、というよりそんなに男前じゃなくても、その人が座ってたり、仕事をしてたり、ゴミを拾ってたりするときであっても、雰囲気があって、かっこいい人っているじゃないですか。その人が歩んできた人生が見えるというか。そんなかっこよさを感じられる靴っていいなぁと思うのです。
そこって、イタリアのデザインって、うまいですね。ちょっとしたラインが、あ、いいな、セクシーだな。と思わせるものが多いです。これみよがしなセクシーさではなく、ステッチの色とか、中敷の色とか、ワンポイントの刺繍とか、ちょっとしたとこにこだわっていきたいですね。
最近、経営者の先輩方によく言われるのが、職人の道を究めるのか、経営者としてより大きな商いをするのか。ということなのですが、僕は両方やりたいんですよね。
幼いころからけっこう器用になんでもできたので、どっちか、というのは決められないです。こんなことを言うと、商いの世界はそんなに甘くない、とお叱りの声も聞こえてきそうですが、職人としての仕事も、中山靴店という会社のこれからの商いを考える経営者の仕事も全部楽しいし、やりたいことなのです。ほんと、どっちつかずですよね。でも、その「どっちつかず」を武器に僕はやっていきたい。
そうすれば、例えば、コンフォート靴屋か、エレガント靴屋かなどという細かなカテゴリーに縛られることもないし、フレキシブルな対応が可能になると思うのです。昔は、0か10かで考えていたこともあったんです。この人の靴は、足にやさしいことを10で考えて、エレガント性は0だ。と言う感じで。でも、それって、うまくいかないんですよね。バランスが大事。そういった意味合いで、私はずっと「どっちつかず」でやっていこうと思っています。もちろん、決して手を抜くということではないですよ。全力でいろんなことに挑んでいきたいのです。